地域の歴史や文化が詰まったタイムカプセル  谷川健一著『日本の地名』

 著者は地名の大切さを訴える。日本ではどこでも豊かな飲料水に恵まれ、そのありがたみに気づきにくいように、日本各地には地域の歴史や文化が凝縮された多くの地名が存在するにもかかわらず、その価値をなおざりにして、安易な地名の改変が行政によって推奨されてきたと嘆く。どれだけ地名が大切であるか解説するのが本書である。

 例えば、沖縄には各地に「奥武」という地名があり、これはもともと死者の世界を意味する「青(アオ)」から来ているという説がある。実際、「奥武」は死者が葬られた島に重なる。アオの名がついた地名は沖縄に留まらず、佐渡島や三重県・志摩、能登など日本各地にみられる。しかも、海を生業とした海人が活躍した場所ともいえる。こうしたことから、著者は「本土の海岸地帯に見られる青の名を冠した地名と神社は明らかに海人の足跡を示すものである」と結論づける。

 また、本書の最終章では地名「波照間」の由来をめぐる論争について考察を寄せるが、著者は「波照間」にインドシナやフィリピンの文化と交流した痕跡を読み取る説に共感を覚える。(T)

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