いつから言葉は力を失ったか 谷川健一著『南島文学発生論』

 本書では鉄器および製鉄技術の伝来に大きな歴史の節目を置く。鉄の使用によって人間は農耕や武力、建築技術を格段に進歩させ、強大な権力を振るい自然を征服することが可能になった。日本本土では弥生時代の初期にはすでに鉄器が導入されたのに対して、沖縄では1000年以上遅れて12、3世紀になってようやくである。この広大な時間差が沖縄に長く、呪詞の伝統を根付かせたと著者は見る。

 鉄器のように強力な武器のない南の島々では、言葉による力で自然の猛威を抑え、敵をねじ伏せようとしたのである。言葉の力を信じられていた。では呪詞とは何か。国文学者・民俗学者の折口信夫が唱えた「常世神が土地の精霊に与え、服従を誓わせた詞が呪詞であり、その呪詞から叙事詩が生じた、そこに文学の発生がある」という説に触れ、これを中心に検証を重ねる。この過程で、呪詞のうち説話部分が昔話化する物語の起源を見るとともに、仏教が広まり古代国家が建設される以前の日本の面影も感じることができる。(T)

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