沖縄とSDGsに潜む危機を直視せよ 斎藤幸平著『人新世の「資本論」』

 耳慣れない言葉が並ぶタイトルだが、本書を開くとすぐに挑戦的な言葉が目に飛び込む。「SDGsは大衆のアヘンである」。何となく日頃から感じているところをずばり言い当てている。今、政府からメディアまでSDGsを盛んにもてはやし、自分のできる範囲で環境によいことをしましょうと呼びかけている。もちろん、「やらない」よりは「やる」方がよいのに決まっているが、それで人類や地球が抱える危機を回避できるのか。SDGsを唱え自己満足の環境活動をすることによって安心してしまい、本来向き合わなければならない危機から目をそむける結果になっている。

 例えば、世界的に急速に普及が進む電気自動車。地球温暖化を促す二酸化炭素など排気ガスを出さないことから、SDGs推進のキープレイヤーとみなされている。ところが、電気自動車に欠かせない蓄電池を製造する際、主要原料となるリチウムは南米のアンデス山中など限られた地域に埋蔵される。地下水に含まれることから、大量の水をくみ上げて濃縮することになる。当然、周辺の生態系や地域住民に対する影響は大きい上、電気自動車を動かす電気や製造に必要なエネルギーを考慮すれば、削減される二酸化炭素の量はごくわずかといわれる。つまり、地球温暖化という危機を途上国に転嫁するなどして目の前から見えなくしたのにすぎないと筆者は訴える。

 目の前の危機を見えなくする「不可視化」が進むのは、地球温暖化だけではなく、日本の安全保障にも当てはまるだろう。戦後の日本は、国内の米軍基地を沖縄に集約することで、大多数の日本国民から基地負担の意識を消すことと、日米同盟に基づき米軍基地を日本国内に設置することという2つの相反する条件をかろうじて成立させてきた。現在の岸田政権は防衛費を倍増させ敵基地の打撃能力を高める方針を鮮明にしたが、敵基地を打撃するための基地をどこに配置するか明らかにしていない。敵から反撃され標的になる危険性が高いから今後大きな議論になるだろう。今のところ、漏れ伝わる情報によれば、沖縄が中心だろう。具体的に打撃基地を具体的に挙げれば、国民や野党の反発が起きるだろうから、「不可視化」の流れを考えれば、比較的抵抗の少ないと政権が考える沖縄になるに違いない。(T)

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