日本から見えにくい米国の内側  マイケル・サンデル著『実力も運のうち 能力主義は正義か?』②

 バラク・オバマ氏といえば、黒人初の米国大統領であり、核兵器廃絶の演説をしてノーベル平和賞を受賞し、医療保険制度の改革に取り組み、現役の大統領として初めて被爆地・広島を訪問するなど、日本国内ではリベラル・平和主義として評価は悪くないように思う。しかし、本書では、家庭環境や経済的な環境を考慮せず、現在ある地位は本人の努力と才能の結果とする能力主義を広めたとして厳しく批判している。

 社会的に成功したエリート層の地位と誇りを正当化する一方、グローバルリズムの影で出世の階段を駆け上がれない労働者・貧困層に劣等感を植え付け、結果的にトランプ支持層の出現を後押ししたというである。特に注目するのは、オバマ氏が多用した「スマート(賢い)」という用語である。スマートにはイデオロギーや正義・不正義の視点はなく、効率性や合理性、科学を全面に出し、人間的な感情や慣習、文化、伝統、宗教などは後方に退けられがちである。「スマート」によって押さえつけられたものが、トランプ大統領時代に噴き出し社会の分断を加速したとみる。同じ現象を目にしても「スマート」主義者と非「スマート」主義者の間で共有できるものがほとんどなくなりつつある。(T)

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