『南島針突紀行 ●沖縄婦人の入墨を見る●』(市川重治著)
幼い頃の記憶にある、老女たちの手の甲に施された針突(ハジチ・入墨)。青ずんだその紋様は幼心には奇異なものに感じられた。彼女たちはいずれもかなりの高齢者で、親戚の家や市場でよく見かける日常の風景だった。50年くらい前の事だ。彼女たちは激しい沖縄戦と戦後の苦難を、あの紋様と共にくぐり抜け、ようやく穏やかな日常を取り戻していたのだ。幼い私が見たのは、そんな平和な日々を過ごす彼女たち。それはまた消えゆく沖縄の文化、風習を直に見る貴重な体験でもあった。
当時、そんな彼女たちの手の入墨に興味を持ち、沖縄本島から先島まで渡り、その紋様を調査収集したのがこの本の著者である。その紋様の数は200人近いという。私は著者への深い感謝の気持ちと、そしてなぜか嫉妬に似た気持ちまでも抱いてしまうのだ。(Y)