松岡哲平著『沖縄と核』
著者はNHKディレクターであり、2017年に同じタイトルで放映されたNHKスペシャルを書籍化している。沖縄の米軍基地に関してさまざまな著作が発刊されているが、核兵器に関するものは少ない。もともと軍事情報は軍のガードは堅い上、核兵器となると最高機密に属する。壁の厚さに苦しんだジャーナリストや研究家は少なくない。表題のような著作が生まれたのも、著者の熱意と根気に加え、米国にリサーチャーを置き長期の取材を許容するNHKならではの面もあろう。
一般向けに刊行された米軍基地関係の書籍を結構、目を通してきたつもりでも初めて知った事実は少なくない。例えば、小型戦闘機を使って低高度で敵地に侵入し急上昇しながら核爆弾を投下する訓練が1950年代、伊江島で行われていたこと。高い高度で大型機を使って敵地に侵入するとレーダーに発見されやすいことから計画された作戦のようだが、恐ろしく曲芸的な操縦が求められパイロットの人間性に配慮していたとは思えない。
沖縄への直接的な影響でいえば、1959年に起きたミサイルの爆発事故は核兵器の恐ろしさを物語る。発生した当時は、沖縄地元紙でも公表されたが、一般的な事故として処理され特段注目を集める内容ではなかった。しかし、事故にかかわった元米兵たちの証言によれば、核弾頭が搭載されていたという。ほんのささいな過ちでも那覇市が吹き飛ぶくらいの事故につながる可能性を秘めていた。
米軍にとって沖縄とは何かを知る上で注目すべきは、1962年のキューバ危機への対応だろう。キューバをめぐる米ソの対立のはずだが、中国を標的にした中距離弾道ミサイルを沖縄から発射する寸前まで準備が進められた。中国は直接関係ないはずだが、当時は中国もソ連と一体の敵として米国は見なし、いったん火花がつけば、中国にも核ミサイルを撃ち込む戦略だった。しかし、沖縄から発射されれば当然、核の報復は沖縄にも浴びせられる。米軍が沖縄を守るよりも、戦争を呼び込む可能性が高いことを表す歴史的な具体例といえよう。(T)