壮絶な在日朝鮮人の戦前・戦後史 梁石日著『血と骨(上・下)』③

 凶暴で自己中心的な金俊平の存在は上巻の後半部分から徐々に薄くなる。このままフェードアウトするのかと思えば、ぱっと現れて人助けに走る一方、家族に対して激しい暴力をふるう。そして、いままでとは打って変わり突然、独自の事業に乗り出し、再び物語の中心になる予感が漂う。だが、相変わらず金俊平の内面世界について細かい描写はない。彼の内面世界を解きほぐす説明があるのか、このまま得体の知れぬ「怪物」で終わるのか。

 抑圧する人々と抑圧される人々といった具合に類型化せず、生きるためにもがき苦しむ人々を浮かび上がらせているところが本書の魅力だろう。いずれにせよ、1930年代の不況時代から終戦まもない時期にかけて日本の庶民に関する生活は各種の文献、各種作品や資料で描かれるものの、日本で暮らす朝鮮出身の人々がどう生き抜いたかを描くものは少ない。そういう意味では、本書は貴重な物語に違いない。近年は多様性の尊重が叫ばれながらも、日本国内で日本人以外の人々が送った生活を振り返る機会が少ないことは残念に思える。

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