誰が自分の行動を決める? 『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』②
意識の誕生と発達に関する本書の展開はだいたい次のようだ。まず、脳の右半分と左半分が別々に機能する「二分心」の時代から始まった。右半分から左半分に出された指令は「神の声」として受け止められ、それに基づいて人間は行動する。精神的に追い込まれた人が幻聴を聞く状態に近い。紀元前1000年以上前、中東を中心にメソポタミアなどの古代文明が栄えた時代である。
人間は自意識をほとんど持たず「神の声」に従って動く自動機械に近かった。しかし、時代が経過するに従って「神の声」が聞こえなくなる。人間の精神構造に変化が起きたと考えられる。当時の彫刻から神の姿も消える。代わりに古代遺跡の遺物からよく発見されたのは、占いに関するものだ。聞こえなくなった幻聴(神の声)に代わって、神の意志を確認する方法として占いが発達する。
ここまでが本書の前半の論旨である。中でも占いの部分が興味深い。科学技術が発達し精神の自由を勝ち得たと思われる現代でも、占いにすがる人が少なくない。日常生活を振り返った場合、食事から通勤・通学、勉学・仕事、趣味、就寝準備まで、我々の行動はほとんど意識を使わないルーティーンで占められる。たとえ、ルーティーンでない選択や決断をする時でも、友人やSNS上の意見、メディアに流れる有名人のコメントなど、ある種の「神の声」に従うことが多く、意識を働かせる場面は意外と少ない。今後、AIがさらに発達すれば意識の一部を肩代わりし、我々は「神の声」に従っていた意識の黎明期に退行するかもしない。(T)