宮古島にみる沖縄の多様性 角幡唯介著『漂流』②
十年以上前、宮古島出身の人の自分史を編集する仕事を請け負った。あれが自分にとって初めての自分史編集だったと思う。そのせいもあって、自分史の中で宮古島から沖縄本島に出かけることが「沖縄へ行く」と書かれていたことが印象に残っている。宮古島も沖縄県の一部なのに「沖縄へ行く」とあるところに違和感を覚えたのである。その後、こうした言い方は珍しくないことがだんだん分かった。沖縄といってもひとくくりにできない。宮古島や石垣島など先島地域と本島は数百キロ離れているのはもちろん、文化的な違いも小さくない。琉球王国時代、先島地域は王府の指令によって過酷な税を課せられたり強制的に移住させられたりした歴史もある。いずれにせよ、本島との心理的な距離感が「沖縄に行く」に表れるようだ。
本書は宮古島佐良浜地区の漁師たちが背負った歴史に焦点を当てているが、改めて沖縄の多様性を思った。著者は佐良浜の興味深い歴史を丹念に掘り起こす。戦後はカツオやマグロを追って何カ月も船に乗り大金をつかむ。陸地に降りてもわずかばかり家に顔を出す以外は酒を浴びるように飲み放蕩の限りをつくす。金がなくなると再び船に戻る。こうした気風は宮古島全体ではなく佐良浜に限っていたようだ。また、沖縄で遠洋漁業が栄えるのは1990年代ごろまで。今世紀に入るとマグロ・カツオ景気が終焉を迎える。