変幻自在に流転するエイサーをたどる旅 塚田健一著『エイサー物語 移動する人、伝播する芸能』
エイサーといえば、沖縄を代表する「郷土芸能」の1つといわれるが、「郷土芸能」と呼べるかどうか微妙なところもある。定番の演舞曲があるものの、衣装や楽器演奏、踊り方など地域によってかなり差がある上、戦前と戦後では大きく変化している。戦後は、エイサーのない地域にエイサーが広まり、ある地域からある地域へエイサーが伝えられたという話もよく聞く。
本書は、もともとエイサー文化のない石垣島で演じられる双葉エイサーがどこから伝わったか探ろうとする。関係者の証言や演舞のスタイルなどから、与那国島、沖縄市登川、愛知県豊田市など複数の地域がかかわったことが推察される。背景には戦後の沖縄で激しく社会や経済が変転する中、人の流れもこうした地域に沿って生まれたことが浮き上がる。サブタイトル「移動する人、伝播する芸能」である。故郷を遠く離れても、切り捨てがたい絆を芸能に託し新たな文化を創造しようとする。時代に翻弄されやすい沖縄ならではの芸能文化の姿かもしれない。(T)