沖縄の戦後復興と映画館の盛衰 平良竜次・當間早志著『沖縄まぼろし映画館』
本書は、沖縄の復興期に各地に誕生しては消えて行った50の映画館とこれにまつわる人間模様について語っている。中でも、注目したいのが那覇市のアニーパイル国際劇場。戦前は人通りの少ない通りであった新県道が、戦後は「国際通り」の名前がつけられ那覇市の中心繁華街になったのも、終戦間もない時期、通り沿いにアニーパイル国際劇場が建てられたからだ。もちろん、この地域で人を集めたの国際劇場だけでなく、その後国際通り周辺に、平和館、沖映本館、大宝館、国映館、グランドオリオンといった映画館が相次いで生まれたことも大きかったろう。現代では、この界隈は一大シネマコンプレックスと呼べるかもしれない。
まだテレビが普及していなかった時代とはいえ、これだけ映画館が集中し戦後復興につながったことは沖縄の県民性がかかわる部分が大きいはず。もともと民俗芸能や郷土演劇、各種お祭りごとが盛んな土地柄。今でも結婚式の余興には、県外ならばカラオケで歌ってお茶を濁すようなことが多いが、沖縄では歌や踊り、演劇などかなり本格的に作り込まれたものが多い。ちょっとしたショートムービーが上演されることもある。おそらく、こうした芸能好きの県民の血が映画の隆盛に深く絡んだことはほぼ間違いあるまい。沖縄の戦後史といえば、米軍基地の面からばかり語られることが多いが、映画など庶民の生活史からももっと光を当てる必要があろう。(T)