不条理から学べる普遍的教訓はない カミュ著・中条省平訳『ペスト』②

 最後に、訳者の中条氏が解題として本書に込めたカミュの意図をいくつか述べている。その中で非常に示唆深いのは、不条理から学べる普遍的・具体的な教訓はないということだ。カミュは幼い頃から貧困や病気に苦しめられ、さらに言論ゆえに故郷から追放され、戦乱に巻き込まれる。不条理の連続だった。その体験の末に得た彼の結論が、『ペスト』に込められた上記のテーマだ。不条理の嵐の中では、我々は生きるために目の前に現れた問題と闘い、仕事を誠実にこなすことしかできない。

 まさしくこれからの時代に重みを増す言葉だろう。科学や技術の発展によって、自然や社会を統御し新たな富や便利さを得ようとしても、その結果、新たな不条理も生み出す。地球が養える以上に人類は増え、地球が生み出せる以上の豊かさや資源を享受していることは、多くの人々は薄々分かっているはずだ。その結果、いくら抑え込もうとしても、新型コロナウイルスやウクライナ侵攻のような新たな不条理が次々と出現することは避けられない。カミュのように、いったん絶望して何ができるか考えるしかあるまい。(T)

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