新たな神を求める時代とは 宇佐美りん著『推し、燃ゆ』
タイトルを見ただけで拒否反応を覚えるオジさん世代は少なくないかもしれない。「推し」とはアイドルグループの中で自分が一番応援するメンバーを指すらしい。オジサンたちが若かった時代からアイドルが存在したが、本書を読むかぎり近年の事情はだいぶ違うように思う。
1つにはアイドルグループが増え、グループ内でファン人気を競わせる巧妙なシステムが作動する点だ。ファンとしては「推し」が人気ランキングの上位につけることを願い、お金を使うことを惜しまない。グループのCDに人気投票券を入れることによって、ファンは「推し」のために何枚もCDを購入する。さらに、ファンとアイドルが個人的に触れ合える場を多くつくるなど、アイドルビジネスが以前に比べ利益を生む構造がある。
加えて、アイドル事情として気になるのは、ファンたちが置かれた環境である。昔から学校で落ちこぼれや不登校はいたが、本書の主人公ほど追い込まれただろうか。子供たちが学校で求められる学習量がどんどん増え、社会に出て働くとなれば作業に高い効率性を迫られる。主人公は学校になじめず、唯一の居場所を「推し」のファンが集まるネットコミュニティーに求める。「推し」は辛い現実を生きるための神であり、彼の写真を飾る棚はまさに神棚となる。最初に触れた、グループ内でメンバーを競わせるシステムが、「推し」へののめり込みを加速させる。「推し」にすがる少女の心境に、同じ時代を生きる者として響くものを感じずにいられない。(T)