狼の自由は羊にとっての死 荒谷大輔『贈与経済2.0』①

 本書では新しい社会のあり方として贈与経済を取り入れることを提唱するが、その前に近代社会のたどった道を俯瞰している。資本主義社会では、基本的に必要な物資を貨幣で交換して生活する。その貨幣を獲得するための仕事は分業制を採用するとともに自由な競争を促すことによって、技術革新が進み経済的に豊かになった。一方で資本主義の発展によって獲得された富の配分には偏りが生まれ貧富の格差が広がる。

 大型化される生産体制に沿って労働者が都市に集められると、交通渋滞、環境汚染、感染病の拡大などさまざまな社会問題が顕在化する。これに対処するため、税制による富の再配分、環境規制、労働者の権利保護、セーフティーネットの拡充などの施策が取られ、戦後しばらく誰もが安心して暮らせる理想の社会に向って進むかと思われた。

 しかし、近年は世界各地で社会の分断が目立つようになる。貧富の格差はますます広がる一方、弱者や貧困層、移民に対する援助策を批判する声が高まる。一時期のように高い経済成長を期待できないため、少ない成長の果実をめぐって奪い合いが始まり少数派を気遣う余裕がなくなる。おまけに、気候変動・地球温暖化が顕著になりながらも、各国とも自国の経済成長を優先するため、思い切った温室効果ガス削減策をとれない。世界は将来の暗い予測図が目の前でちらつきながらも破綻への道から逃れられない。

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