資本主義社会を相対化 荒谷大輔著『贈与経済2.0』③

 本書の後半部分では新たな贈与経済をどう運営するか記している。公開された自由な話し合いをもとにコミュニティーを形成し贈与し合うシステムを提示している。贈与だけで生活が成立するか疑問が湧くが、新しい贈与経済的な発想は現実社会に入り込んでいることは確かだ。ボランティア活動や一部のクラウドファンディングは、貨幣を商品やサービスと交換する資本主義的思考とは異なる発想をもとに現代社会で活動の幅を広げている。

 こうした新しい社会像を描くことも重要だが、新しい贈与経済の役割はまず、現代の資本主義社会を相対化することだろう。私たちは資本主義的な思考にまったく染まりきっている。貨幣でたいていのモノやサービスを手にしようとする。簡単にいえば、ほとんどのことがカネで片が付くと考える。カネさえ払えば何ら引け目を感じることはない。この当然のような行為は、人間関係を築く贈与から見れば、関係の断絶とも束縛からの解放とも解釈できる。

 また、旧来の贈与経済は新しい贈与経済から見れば、贈与によって束縛が生まれ、コミュニティーも閉鎖的であり受け継がれた決まりごとを黙って受け入れるしかない。地縁・血縁のしがらみに苦しめられたのも事実。資本主義経済が世界中に広まったのも、こうした旧来の贈与経済の束縛から離れ自由な生活を享受したいがため。資本主義は人を孤立に追い込みやすいが、自由と競争を求める資本主義の原点も忘れてはならないだろう。

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