戦争に打ちのめされる日系二世の心情 下嶋哲朗著『比嘉トーマス太郎』①
食糧難にあえぐ終戦直後の沖縄へ豚550頭を船で送る物語「海から豚がやってきた」はミュージカルになるなど知られるようになったが、こうした沖縄救済活動の中心人物の一人がアメリカ・ハワイの日系二世・比嘉トーマス太郎。本書の主人公である。私は、戦前生まれの日系ブラジル人二世について書いたことがあるが(このホームページの「沖縄探見社の本」で『国会議員になった「隠れキリシタン」』を参照)、ブラジルとアメリカの違いがあるものの、少なくとも3つ共通点を挙げらる。
1点目は、戦前の日本人移民(一世)は金を稼いだら帰国するつもりだったので、子供たち(二世)を日本人として育てようとするが、二世たちは育った国の影響も受けどこにアイデンティティを求めるべきか悩む。心ない一世は二世を「できそこないの日本人」とも呼んだ。2点目は、戦前の日本を二世たちが訪れるが、アメリカにしろブラジルにしろ敵対国家扱いだったため、二世たちも「敵性外国人」扱いを受ける。3点目は、そのような扱いにもかかわらず、帰国後は敗戦後の日本と母国の友好関係に尽力する。
特に3点目は強調したい。敗戦後の日本が立ち直ったのは日本人自身の努力が大きいが、海外在住の日本人移民や日系二世たちも決して豊かでないにもかかわらず日本救済活動に力を惜しまなかった。その気持ちが忘れられがちになるのはなんとも寂しいものである。