他者の孤独を聞き自分の孤独を救う 町田そのこ著『52ヘルツのクジラたち』

 世間によく出回るようになった「絆」という言葉を聞くと少々警戒する。絆は場合によっては「柵(しがらみ)」になりかねないからだ。「絆」と「柵」の違いは存在する。相手の心にきちんと向き合い行動すれば「絆」になりうるが、相手の心を無視して関係を押し付けるだけならば「柵」になりかねない。

 本書の表題は他者には届かない孤独と絶望の声を象徴する。主人公が置かれた境遇はかなり極端のようにも思えるが、2021年本屋大賞を受賞するなど広く共感を呼んだのは、他者に自分の声が届かないと感じ孤独に沈む人がいかに多いか物語るのだろう。ちょうどコロナ禍が日本中に広まった時期と重なる。

 ではどうやって孤独から抜け出せるのか。本書では、他者の孤独を知り、そこに寄り添いたいという願いから出発する。もちろん簡単なことではない。孤独は深ければ深いほど他者の理解を拒む。その深さに気づいた時には、取り返しのつかないところまで絶望が突き進んでいるかもしれない。しかし、他者の孤独に耳を傾け続けることによってしか自分の孤独を救えない人もいるのかもしれない。

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