ヤマタノオロチと獅子舞 稲村行真著『ニッポン獅子舞紀行』③
時間は同じ場所を同じように繰り返し流れるうちに淀み腐敗する。時折、獅子のような魔物が舞い降りてかき乱すことによって清められる。こうした考えは日本人の心情に受け入れやすく、獅子舞は国内で最も広く継承される民俗芸能の一つになったようだ。本書は全国各地の獅子舞を紹介するが、典型的な獅子以外にも猫や虎、麒麟など様々な動物に扮して舞う。また、獅子舞を担うのは1人また2人だと思っていたが、山形県には1つの獅子に10人から15人が入る場合があるそうだ。
獅子と対峙する登場人物も舞台に現れる。沖縄では棒術の使い手や、紐付きまりを持った少年・少女が多いように思われるが、いずれも途中から消え獅子の独壇場になる。一方、石川県では棒による獅子殺し、和歌山県では神の使いによる獅子退治、富山県では天狗が火のついた松明を使って獅子を威嚇するなど誰が舞いの主役か分からない地域もあるようだ。獅子がとぐろを巻き、酒に酔ったところを刀で切られるなどヤマタノオロチ伝説との関連性が指摘される地域もある。伝承によって広まった部分と、地域独自の文化や風習が培った部分が入り混じっているのだろう。本書によれば、生き物感が強い沖縄の獅子舞は、中国北部から朝鮮半島を経由して伝わったという。