戦争が残した狂気と欲望 又吉栄喜著『ギンネム屋敷』
集英社クリエイティブ編『戦争と文学8 オキナワ 終わらぬ戦争』から②

何とも後味の悪い小説である。主要な登場人物は、片足を失い酒に溺れる「おじい」、まともに働くことを厭う若者「勇吉」、若い女性を水商売で働かせてヒモ状態の「私」の3人。世間的にははみ出し者で互いに罵り合うことが多いが、3人を結びつけたのはカネである。ギンネム屋敷に住む朝鮮半島出身者からカネを脅し取ろうと画策する。責任転嫁や自己正当化、現実逃避の妄想から相手を非難する言葉がほとばしる。
客観的な事実だけを並べれば、「どうしようもない」3人だが、簡単にそう切って捨てられない。3人には沖縄戦の影が色濃く落ちるからだ。沖縄戦といえば激しい戦闘と多くの人命の喪失が語られる。だが、それだけでなく戦闘が終結した後も、じわじわと多くの人生を狂わせ暗黒の闇の中へ突き落す。その典型を切り取り拡大鏡で押し広げ鼻先に突きつけたのが本作かもしれない。