かき消される戦争の傷跡 目取真俊著『平和通りと名付けられた街を歩いて』

集英社クリエイティブ編『戦争と文学8 オキナワ 終わらぬ戦争』から⑤

 本作品は本土復帰から10年余り、皇族が沖縄を訪問するという設定のようだ。本土では高度経済成長を経て戦争は遠い過去になりつつあったかもしれないが、沖縄では、戦争で家族や親族を失った上、人権が軽んじられた25年の米軍支配が続いたため、簡単には過去のことと片付けられない人々が少なくない。

 そこへ皇族訪問という大きなイベントが舞い込む。警備を担当する警察は、ほんの小さなトラブルもあってはならないと付近住民に強い規制や締め付けをかけてくる。あっさり引き下がる住民もいれば、戦争の悪夢を思い出し反発する住民もいる。場合によっては住民の間に深い分断を招く。大手メディアでは皇族訪問はなごやかな雰囲気に包まれた予定調和的な紹介が目立つが、現実にはその陰で住民の間に大きな苦悩を巻き起こすことを本作品は物語る。

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