注目したい本土と沖縄米軍基地の関係 野添文彬著『沖縄米軍基地全史』
日本は過去を検証しない国ではないか。常々そんな疑念が頭をよぎる。この1年半ほどの間、多くの社会的な混乱と経済的な損失をもたらした新型コロナ対策しかり。戦後沖縄に計り知れない影響を及ぼした米軍基地にも当てはまるだろう。沖縄の米軍基地といえば、戦後ずっと変わることなく堅固に根を張り、日本政府にとって治外法権のような存在というイメージが広く出回っている。しかし、沖縄における米軍基地の歴史を振り返ると、このイメージは実態とかなりかけ離れ、日本政府が沖縄の基地負担を本気で大きく減らそうとすれば十分可能であることが浮かび上がる。
野添文彬著『沖縄米軍基地全史』をみると、日本側が米軍の基地政策に大きな影響を及ぼした時期がある。1950年代、本土各地で米軍基地への反対運動が活発化し日米関係を悪化させることが危惧されると、本土に駐留する海兵隊が、当時は米軍の統治下にあった沖縄に移り、沖縄における主力軍になった。また、1970年代、ベトナム戦争が終結し米国側が基地再編に動くと、関東地域にあった米軍基地は大幅に整理・縮小されるが、沖縄の米軍基地は、抑止力の低下を懸念する日本側の説得や働きかけもあり手をつけられなかった。日本政府が意図的だったかどうかはともかく、本土で嫌われる米軍基地を沖縄に押し付けることによって、米軍に対する一般市民の反発を減らしてきたことは明らかである。