変わりゆく現世とあの世の距離感 谷川健一著『日本人の魂のゆくえ』

 サブタイトルに「古代日本と琉球の死生観」とあるように、本書では仏教の影響を受ける以前の古代日本や沖縄で、人々は「あの世」をどのように捉えたかが主題になっている。印象深いのは、あの世と現世の近さだ。かつて沖縄では、身近な海辺の洞窟に、あの世への入り口があると信じられ、人が亡くなるとそこに葬られた。

 著者は「宮古島や沖縄では、現世と他界はまったくの相似形です。現世で警察官だとあの世でも警察官。この世で葬式を出すときあの世でも葬式を出す」と記す。死は恐れる存在ではなかったから、死者が腐敗を始め臭気を放つまで毎晩、その前で仲間が酒を酌み交わし踊り狂う宴を繰り広げる地域もあったという。

 翻って現代を見回すと、身近なところから死は消えた。弱った老人たちは施設に送り込まれ、大半の人が自宅ではなく病院で死を迎える。「残虐」「醜悪」の非難のもと、少しでも死をにおわせる画像や映像は削除される。代わりに日常に氾濫するのは、平均寿命をはじめ死にまつわる無機質なデータばかり。死は日常とかけ離れ、恐ろしい存在になったのかもしれない。

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