柳田が照らし出す沖縄 酒井卯作著『柳田国男と琉球』
サブタイトルに「『海南小記』をよむ」とあるように、本書は琉球列島を旅した柳田国男の紀行文『海南小記』を解説している。民俗学の大家といわれる柳田だが、その文章は現代の我々にとってすんなり頭に入れやすいとはいえない。おまけに、詳しい時代背景や細かい説明を欠く場合が目に付く。著者は『海南小記』と同じ項目を設けて、その内容を現代人でも理解しやすいように解きほぐし、説明やデータを補っている。
琉球王国時代、宮古島の女性に課せられた上布の税について、「島布と粟」の項で柳田は、さらりと「銘も落款もなく島を出ていく物に、優しい女性の生涯を潰させている」と触れるが、本書では布が女性たちをつくりあげる工程を具体的にたどり、いかに過酷であったか説く。最後には、無事貢納を終えた女性が「鼻水と涙をいっしょに流しながら歓喜して役所から帰る」情景が登場する。
「いれずみの南北」では、柳田が琉球に関心を抱いたきっかは、沖縄の少女の手に施された小さな入れ墨を見たことにあると紹介。「旧城の花」では、柳田が沖縄文化の象徴である首里城については触れず、うらぶれた雰囲気さえ漂う浦添城跡について記したことに焦点を当てる。著者は、華麗な宮廷文化よりも庶民が残した物語や営みの跡に柳田が関心を寄せた証と推測する。これはこの項目だけに限らず、著作全体を通じていえることだろう。