住民にとって豊かさとは何か 柳宗悦著『琉球の富』①

 著者は美術評論家や宗教哲学者として知られるが、本書ではタイトルのとおり琉球の富について語る。富の象徴として最初に「墳墓」を、次に「首里」を挙げている。ともに壮大さや豪華さとはかけ離れ、ぱっと見た印象では地味である。しかし、けばけばしい華やかさがないだけであり、著者は深い精神性を見出す。何気ない日常の風景や用具に美を見出そうとした「民芸運動」を推し進めたことを思い起こせば、戦前の沖縄に対する高い評価もうなずける。

 首里のように「自然と歴史と人文との調和が、かくも保存されている都市」は少なくとも国内にはないと評価する。「あの安っぽい亜鉛板の屋根は、まだ無遠慮に介在してはいないのです。建物の殆ど凡てはあの豊かな昔乍らの赤瓦を用いているのです」。日本の美しい古都として挙げられる奈良や京都は「縁のない洋風の建物、それも統一のない様々な様式、汚れた裏町、安価な店構え、俗悪な喧噪」があると嘆く。我が国が近代化によって経済的には豊かになる一方、何を失ったか思い知らされる。(T)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です