現代の病巣を凝縮 凪良ゆう著『流浪の月』
今の時代はさまざまな社会的な問題が渦巻くが、育った時代や関心を持つ分野によって語りにくいものが少なくない。性的虐待、ドメスティック・バイオレンス、ネットによる人権侵害、親の育児放棄、小児性愛など、本書で語られるテーマがまさにそれである。これまでも自分の書く文章ではほとんど触れたことがない。深刻な社会問題でありながら、個人的に関連した体験が少ないことに加えて、私的な部分と公的な部分の境界は曖昧で、ケースによって事情がまるで異なり、いくつかの要素を取り出して善悪を判断することが難しいせいもあろう(世間が画一的にレッテルを張りたがることを本書の主人公は嫌悪する)。だから読み進みながら「そういうものなのだろうな」と思いつつも、立ちすくむしかない。