繰り返さる問い 日本人とは何か 大江健三郎著『沖縄ノート』①

 本書「Ⅰ日本が沖縄に属する」では、繰り返し「日本人とはなにか、このような日本人ではないところの日本人へと自分をかえることはできないか」という問いが繰り返される。著者が本土復帰前の1960年代に沖縄を訪れた体験から、頭に浮かぶ問いである。通常ならば「沖縄が日本に属する」と言うべきだが、沖縄という小さな離島に安全保障の歪みを背負わせ、独立国家の体面を保つという日本人の醜さゆえに「日本が沖縄に属する」と著者は表現する。

 本書では「今日の日本の実体は、沖縄の存在のかげにかくれて、ひそかに沖縄に属することによってのみ、いまかくのごとくににせの自立を示している」と書かれている。この文をまとめたのは著者がまだ30代前半の頃である。50代の終わり近くでノーベル文学賞を受賞した時の記念講演が「あいまいな日本の私」。少なくとも本書をまとめ始めた頃から、「日本人とは何か」を問い続けてきたと考えるのが自然であり、沖縄と日本の関係もこの頃から変わらないといえよう。いや、「美しい日本」が宣伝され日本を訪れる外国人観光客に「美しい日本」を語らせるテレビ番組が蔓延するようになり、著者が語っていた本質が見えにくくなっているという意味では事態は悪化しているかもしれない。(T)

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