『沖縄と私と娼婦』

 本書は今から半世紀近く前に発刊された同名の書を今年、筑摩書房が文庫化したものである。読んでいて頭に浮かぶのは、作者の佐木隆三氏がじっと娼婦たちの話に耳を傾ける姿である。これは簡単のようでいて結構難しい。とかく他人の話は、自分の価値観で切り抜き、都合のよいように美化したり、非難したりしようとしがちである。

 こうすることができたのに」とか「こうすればよかったのに」とか、後から他人の人生について指摘することはたやすいが、本人にしてみれば、その時の心境や置かれた状況では、そうするしかなかった。今さら後悔したところで何が変わるわけでもない。やりなおすことなどできず、他人にあれこれ文句をつけられても悲しくなるだけ。そんな一度きりの人生の重さをかみしめて「やるせなさ」にひたるのが佐木氏だと思う。

 近年は、やたら「正しさ」を振り回す人々が増えている気がしてならない。テレビ時代さらにネット時代となって、短い時間のうちに論戦し打ち勝つには、より鋭利な「正しさ」を磨きあげ相手を切り捨てることが手っ取り早い。人生は「正しさ」によって切り刻まれるほど、薄っぺらく軽くなりつつあるのかもしれない。

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