受け止めきれない人間の弱さ 町田康著『告白』

 本書を読み始めた時、作者がなぜ、明治を迎えて間もない河内地方の農村を舞台に、百姓の長男という城戸熊太郎を主人公に800ページを超える長編小説を書いたのか、腑に落ちなかった。物語は熊太郎の幼少期からスタートする。子供どうしのいざこざ、喧嘩、駆け引き、など現代でもありそうな風景である。だが、青年期を迎える頃から熊太郎の人生の歯車が大きく狂い出す。

 熊太郎は見栄やはったり、虚栄心、金銭欲、自惚れ、自堕落といった人間の弱さに満ち溢れ、時として我を忘れてしまう。特に酒や賭博を覚えてからは、のめり込み暴走が止まらなくなる。おまけに内省的で思弁的な性格が災いし、うまく自分の気持ちを仲間に伝えられず一層孤独を感じ孤立する。人間的な弱さがすべて熊太郎にとってマイナスに働き、生きる場所を失っていく。

 もし、熊太郎が現代に生きていれば、管理・監視社会のもと早めに排除されたり矯正訓練を施されたりしているかもしれない。世の不条理を感じながらも、世を変えたいと考えるほど、強烈な精神の持ち主でない。落ちこぼれや落伍者としてしか描けまい。明治というまだ社会の管理・監視が緩かった時代だからこそ、人間の弱さを弱さとして際立たせ人生の不条理が浮かび上がらせたのだろう。

 本書を読んでいると、先に進めなくなることが時々ある。熊太郎の弱さが我が身の弱さを突き刺し、ハラハラドキドキする。(T)

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