「昔はよかった」と言うけれど
近年マナー・モラルの低下が叫ばれ、何となく「そうだろうな」と思い込んできた。しかし、具体的に資料を調べたり研究したりしたわけではない。昔はマナー・モラルについて厳しく躾けられたというイメージが浸透しているだけ。過去に理想を求める考えには慎重でなければならない。大倉幸宏著『「昔はよかった」と言うけれど ―戦前のマナー・モラルから考える―』(新評論 2013年)を読んでそう思った。
著者は、戦前の新聞や著作物からマナーやモラルの関する部分を調べ、当時の実態を描こうとする。列車への割り込み乗車、車内でのゴミ捨てや宴会騒ぎ、横行する無賃乗車、ゴミ捨て場と化した道路・河川や公園、輸送荷物からの抜き取り、犬猫の死肉販売…。現代日本では考えられず、どこか途上国のような行いの数々である。
こうした実例を挙げながら、現代の方の方が、明らかにマナー・モラルが向上していると断定するとともに、著者は最後に、道徳教育のあり方に疑問を投げかける。戦前には、道徳が教科として教えられていたにもかかわらず、かなりひどい状態。今、安倍内閣のもとで再び道徳を教科にしてもマナー・モラルの向上に効果があるのか。いつ、なぜ日本人のマナー・モラルが崩れたかは議論の余地があると思うが、道徳の教科化についてはまったく同感である。