「あなたのことを思って」の恐ろしさ 近内悠太著『世界は贈与でできている』②

 一番いやな言い方は「あなたのことを思って言っている」である。自分の発言や意見の正しさを「あなたのことを思って」と主張する。大抵は私利私欲、自分の都合のよい組織や秩序を守るためであるにもかかわらず、何とも恩着せがましい。本人に自覚があればよいのだが、扱いに困るのは自覚がない場合だ。本書でも触れているように、親がこれを口にする場合、子供は簡単に拒みにくい。本来、親から子供への愛情は無償であり贈与である。ところが、親子関係が強すぎると、子離れできない親が子供を支配するために「あなたのことを思って」の論理を振り回す。「毒親」と呼ばれる現象だ。これだけ子供に愛情を注いだのだから、子供はそれに応えるのが当然という、愛情の等価交換という資本主義の論理がいつの間にか入り込む。しかも親子関係だけに等価交換の構図は見えにくく自覚が薄い。そこに毒親の悲劇がある。(T)

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