倭寇との微妙な距離 吉成直樹著『琉球王国は誰がつくったか』
琉球王国の成り立ちを語る際、倭寇の存在に触れる研究者は少なくない。倭寇とは13世紀から16世紀にかけて中国および朝鮮半島の沿岸で略奪行為や私・密貿易を行った集団を意味する。倭寇が琉球王国にどの程度かかわったかについて研究者によって見解は異なるが、本書の著者は「去勢された倭寇」が琉球を形成したとしている。しかも、倭寇は必ずしも日本人とは限らないが、王国を創建した尚思紹・尚巴志(第一尚氏)も日本から渡ってきたとする説に共感している。彼らが拠点とした佐敷上グスクは本土的な構造の城郭を持ち、第一尚氏にまつわる地名と類似のものが九州などに存在する。
著者がこうした倭寇重視の説を展開する背景には、農耕社会が発展して三山時代・琉球王国の形成につながったとする従来の歴史観に対する強い疑問がある。従来の歴史観では、11世紀半ばにグスク時代に入って農耕が始まり、余剰生産物を蓄え勢力を誇る各地の支配者が争った結果、14世紀には沖縄本島は中山、山北、山南という三人の王に統合されて三山時代を迎え、15世紀には中山に統一される。しかし、著者はグスク時代に農耕が始まっても農耕社会は成立せず、琉球王国が誕生する時点でも交易に重点を置いた分析が必要とする。本書のサブタイルも「倭寇と交易の時代」になっている。