抑止力神話とウクライナと沖縄
ロシア軍のウクライナ侵攻を知って、台湾危機が発生したら日本はどうなるかと考えた人は沖縄では少なくないだろう。ロシア軍はウクライナ周辺で軍事的な圧力をかけていたが、本格的に侵攻すると予想した人は専門家を含めても少数だった。親ロシア派とウクライナ軍が交戦する東部地域に、限定的に介入するぐらいと見ていた。1990年代の初めにソ連が崩壊し、東西冷戦が終結してから、世界は武力による紛争解決を放棄する方向へ向かうと何となく思い込んできたが、幻想にすぎないことを思い知らされた。
そう考えると、日本人がこれまで信頼してきた「抑止力」が、思ったほど強固でないことが浮かび上がる。冷静に分析すれば外交や軍事の専門家でなくても理解できる。かつて米国が圧倒的な軍事力や経済力を誇った時代はともかく、現代のように抜きん出た力を持つ国がない世界では、「抑止力」が効かない場合もありうる。自国の領土を侵犯されない限り、民主主義国では軍事力を発動しにくい一方、権威主義の国では国民の犠牲に躊躇せず脅しをかけられ、今回のウクライナ侵攻のように実際に軍事行動に移る。短期的には権威主義の国が力を示せ、「抑止力」が安定しているとはいえない。
もちろん、権威主義の国に対して武力行使で対抗しても平和や安定にはつながらず、中長期的には見れば権威主義国の軍事行動が必ずしも成功するとは限らない。ただ、台湾など東アジアの発火点になりかねない地域に隣接する我が国では、いくら「日米同盟は強固」を繰り返しても、自国の兵士が血を流し核保有国との戦争になるリスクを犯してまで米国が軍事的な支援をするとは期待できまい。昨年のアフガニスタンからの撤退や今回のウクライナ侵攻への対応を見れば明らかだ。国際的な協調は必要だが、自国の安全は自国で守るという原則は忘れてはならない。(T)