生者と死者の曖昧な境界線 大城立裕著『レールの向こう』
著者の名前を聞くと、日本と沖縄の関係をひたすら問い続けた小説家というイメージがある。収録されている5編の小説は、最初の「レールの向こう」が病院を中心に出会いと回想が繰り返され、最後の「天女の幽霊」も開発が進む那覇新都心の風景が描かれるなど現在の戦後沖縄が舞台である。沖縄の本土復帰前後に発表された『カクテルパーティー』『琉球処分』『まぼろしの祖国』のように明確な対立軸はなく、もっと心の深い部分の静かな流れを探っている。
戦後沖縄では本土と同じ時間が流れるように見えるが、本書では随所に霊的な空気や複雑に絡み合った人間関係が浮かび上がる。本土でも占い師や霊媒師を介して広がる霊的な空間はあるだろうが、沖縄はそれらとは異なる世界観があり、著者もこだわってきた点だろう。生者と死者に横たわる境界線の曖昧さであり、経済的な合理性や効率性に抗う心性もその一つではないだろうか。(T)