用心棒と非正規雇用  藤沢周平著『用心棒日月抄』

 時代小説や歴史小説は、時代背景や人物像など現代とはさまざまな面で違いはあっても多くの人々に読み継がれている。現代人も共感できるものがあるからだろう。本書についてはいえば、自由の気風ではないか。主人公の青江又八郎および、その相棒役でよく登場する細谷源大夫は、いずれも浪人であり剣の腕を生かす用心棒役を引き受ける。もう1人の主要登場人物である相模屋・吉蔵も、長年培った人物を見る目を頼りに1人で口利き屋(現在の人材派遣・紹介か?)を営み、2人に仕事を紹介する。3人に共通するのは組織に頼らず1人で生きているところだ。

 吉蔵は別として、又八郎にしろ細谷にしろ、現代でいえば「非正規雇用」。黙っていても仕事があり給料を手にできる会社(藩)勤めではない。実際、生きるために全身筋肉痛に苦しむ肉体労働に従事し、そうした仕事さえない時は、何日もまともに食べられないこともある。にもかかわらず、「非正規雇用」がまとう暗さがないのは、2人とも剣の道という誇りがあり、他人には縛られない自由があるからだろう。しかも、吉蔵を含めた3人の間には、互いに打算で動くことはあっても、いざという時には相手を慮り、重荷にならないように手を差し伸べる、絶妙な距離感があるおかげだろう。風通しがいいのだ。貧しくとも自由な暮らしを支える誇りと人間関係は、現代ではなかなか手に入りにくいのかもしれない。(T)

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