隠すことは悪いことか?

谷崎潤一郎著『刺青・秘密』

 趣味で本を手にする場合、1人の著者や似た傾向の本をあまり続けて読まないようにしている。本の影響を受けやすく、頭の中が本の内容に染まりそうだからだ。そういう意味では、谷崎作品は現代的な常識を突き放し評価し直すには格好の物差しかもしれない。特に本書に登場する人物は、サディスト、マゾヒスト、お調子者、借金踏み倒しの常連者、女装愛好者など、およそ現代では肯定されない性格の持ち主が目立つ。さらに「秘密」めいた匂いがいつも付きまとい、それゆえ登場人物たちは人生に潤いを得ているようにみえる。誰にも後ろ指さされない「平均的な人間」は思い描くことはできるが、本当にそんな人間がいるのだろうか。他人には明かせない「秘密」を誰しも抱え、そこに無情の喜びを感じているのではないか。そんな疑問が湧いてくる。(T)

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