地球の反対側でも戦争の悲劇 大城立裕著『ノロエステ鉄道』

 戦争は残酷である。日本から遠く離れた国に移住した人々も戦争の悲劇に巻き込む。そんな事実に光を当てたのが本書である。最初の移民船である笠戸丸でブラジルに到着した沖縄出身の夫婦が主人公だ。短編小説であるが、モデルとなる実在人物がいたという。

 この夫婦は配属された農園では奴隷扱いされる上、事前の説明よりも遥かに少ない賃金しか与えられず、耐えられないと農園から逃亡する。その後ノロエステ鉄道の工事現場でそろって工夫の仕事に就く。同鉄道は南マットグロッソ州を東西に横断し隣接するサンパウロ州と結ぶために建設が進められ、農園労働に比べ高い賃金を得られた。同様に農園を去った日本人移民が多く働いたといわれる。

 ただ、重労働であり人里離れた場所での工事のため、妻は流産を繰り返し、ようやく授かった子供も医者にみせられず死なせるなどの代償を払う。それでも、蓄えた資金で雑貨店を営むが、第二次世界大戦が始まると、連合国側についたブラジルでは反日感情がくすぶるようになり、この雑貨店は暴動で焼かれてしまう。さらに、夫は日本の勝利を信じる「勝ち組」と敗戦を認める「負け組」抗争に巻き込まれ寿命を縮めることになる。

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